東京高等裁判所 平成11年(行コ)279号 判決 2000年6月29日
控訴人
小川一雄
右訴訟代理人弁護士
宮澤正雄
被控訴人
高田税務署長 藤巻克夫
右指定代理人
松村葉子
同
小山博美
同
吉村正志
同
渡邊雅行
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人に対し平成六年五月二四日付けでした平成三年分の所得税の更正処分及び重加算税賦課決定処分(平成七年五月三一日付け更正処分及び重加算税の変更決定処分による減額後の額)のうち、原判決別表1の控訴人主張額欄記載の各金額を超える部分を取り消す。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
本件控訴を棄却する。
第二事案の概要(以下、略称は、原判決のそれによる。)
一 本件は、控訴人が細谷光男に平成二年一〇月三〇日支払った一八六五万三三〇〇円(本件金員)について、被控訴人が、右金員は細谷が東栄不動産と交渉した結果、丸澤勇が受領できるはずの金員が増加したため、その謝礼の趣旨で控訴人が細谷に交付したものであり、本来丸澤の負担に帰すべきものであるから、控訴人の雑所得の必要経費には当たらないとして、それを前提として控訴人の平成三年分の所得税額を算定し、本件課税処分をしたところ、控訴人が、本件金員は、細谷の交渉により、控訴人が本件蟹池土地仮登記を得たことに対する謝礼として細谷に交付したものであり、本来控訴人の負担に帰すべきものであるから、控訴人の雑所得の必要経費に当たるとして、本件課税処分の取消しを求めたのに対し、原審が、被控訴人の主張を採用し、控訴人の請求を棄却する判決をしたため、控訴人が、右判決を不服として、控訴した事案である。
二 当事者双方の主張は、原判決書三頁九行目から同一六頁二行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
三 本件の争点は、本件課税処分の適否であるが、具体的には、本件金員が、被控訴人の主張するように、細谷が東栄不動産と交渉した結果、丸澤が受領できるはずの金員が増加したことに対する謝礼の趣旨で交付されたもので、本来丸澤の負担に帰すべきものであり、控訴人の雑所得の必要経費に当たらないか、それとも、控訴人の主張するように、細谷の交渉により控訴人が本件蟹池土地仮登記を得たことに対する謝礼の趣旨で交付されたもので、本来控訴人の負担に帰すべきものであり、控訴人の雑所得の必要経費に当たるか、である。
第三当裁判所の判断
一 当裁判所も、本件金員は、細谷が東栄不動産と交渉し、丸澤が受領できる金員を増加させたことに対する謝礼の趣旨で交付されたものであり、本来丸澤の負担に帰すべきものであって、控訴人の雑所得の必要経費に当たらず、控訴人の本件更正処分等の取消しの請求は理由がないと判断する。その理由は、原判決の理由説示と同旨であるからこれを引用する(ただし、原判決書二四頁一〇行目の「購入」を「購入資金」と改める。)。なお、控訴理由にかんがみ、当裁判所の判断を次のとおり付加しておくこととする。
本件金員は、控訴人が細谷の要求を受けて支払ったものであることについては当事者間に争いがないところ、細谷は、平成六年五月一日の検察官の取調べにおいて、乙第一一号証添付の資料(細谷のセールスダイアリー)について、これが何の計算式か思い出せないなどとして、従前の供述を翻しているが、その理由については、「その日は体調が悪かったので、訳が分からぬままに認めてしまったのだと思います。」などとあいまいな弁解に終始しているのであり、従前の供述こそが真実を物語るものといえる(乙第一一号証)。そして、その細谷の従前の供述によれば、細谷は、この計算式を、東栄不動産からの増加分(四八六五万三三〇〇円)の二分の一である二四三二万六六五〇円から本件金員一八六五万三三〇〇円を差し引いた残額五六七万三三五〇円を控訴人に要求する趣旨で記載したとして、結局、本件金員が、細谷の交渉により、東栄不動産が丸澤に支払うべき金員を増加させたことに対する謝礼の趣旨で要求したものであると供述している。一方、控訴人も、平成六年四月三〇日の検察官の取調べに際しては、検察官に対し、細谷から東栄不動産との交渉を行った手数料という名目で本件金員を要求されたので、これを支払ったとして、本件金員は、細谷から東栄不動産が丸澤に支払うべき金員を増加させたことに対する謝礼の趣旨で要求された旨を供述しているのである(乙第七号証)。控訴人は、この供述について、後に原審において、正当な理由がないのに本件蟹池土地について控訴人名義の仮登記を経由したことの後ろめたさから、右のような虚偽の供述をしたと述べているが、控訴人の検察官に対する供述は、具体的かつ詳細であって、右のような後ろめたさからでまかせに述べたものとは到底考えがたく、真実を物語っているものと思われる。細谷の右供述と控訴人の検察官に対する右供述は、ともに一致して本件金員が、細谷の交渉により東栄不動産の支払うべき補足金が増加したことに対する謝礼の趣旨で授受したものである旨を供述しているのである。そのことからしてすでに、本件金員は、控訴人が本件蟹池土地仮登記を得たことに対する謝礼としてではなく、東栄不動産がその支払うべき補足金を増加させたことに対する謝礼として支払われたものであると認定することができるというべきである。
なお、控訴人は、本件金員が本件蟹池土地仮登記がされた翌日細谷に送金されていることを掲げて、これが本件蟹池土地仮登記の謝礼の趣旨で交付されたことの証左であると主張する。しかし、本件金員が本件蟹池土地仮登記がされた翌日細谷に送金されたのは、原判決が説示しているように、控訴人はかねて本件蟹池土地仮登記がされたならば本件金員を支払うつもりでいたところ、平成二年一〇月二九日に本件蟹池土地仮登記が経由されたので、早速その翌日に右のような趣旨で本件金員を支払ったことによるものであって、そのことから本件金員が右仮登記に対する謝礼として支払われたものであると認めることはできないのである。また、控訴人は、本件金員について、細かい計算過程を示して、これが本件蟹池土地仮登記の謝礼の趣旨であることを根拠付けようとするのであるが、結局は推測の域を出るものではなく、これにより本件金員が控訴人の主張するような趣旨で交付されたものと認めることはできないといわなければならない。
二 よって、控訴人の本訴請求は棄却を免れず、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日・平成一二年四月二五日)
(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 近藤壽邦 裁判官 川口代志子)